▼高津和彦コラム
監修/高津和彦
取材・文/小川祐美
2012年春から大阪工業大学で客員教授として教壇に立つスピーチトレーナー・高津和彦氏に取材し、これからのエンジニアがどうあるべきかを伺いました。
工業技術について専門的な知識を持たない高津氏が、なぜ工業大学で教鞭を取ることになったのか? 学生たちに何を学ばせようとしているのか?
取材を通して、昨今の工業・ITに携わる技術者が置かれている状況と、社会で生き残るために必要なスキルが見えてきました。
高津氏が主任講師を務めるベストスピーカー・ベストプレゼンのセミナーには、様々な職種の人が訪れます。
その中でも近年目立つのが、士業者と技術者の増加。
士業者は、顧客への説明力が死活問題に直結しているので、話し方やプレゼンテーションを勉強しようとするのは当然でしょう。
その人数が増えているのは、昨今の不景気を背景に、資格を取得して独立開業する人が多くなったこと、またそれに伴って同業者間での競争が激化していることの現れです。
しかし、技術者が増えているのはなぜか?
セミナー参加者たちからの聞き取りで浮かび上がってきたのは、技術者たちが直に顧客と接する機会が年々増えているという事実。
一昔前までは、顧客と接するのは営業職の仕事。技術畑の人間は、社内にとどまって開発や研究に専念していればよかったのです。
ところが、今は技術者が営業に同行する・あるいは技術者が顧客と直接やり取りをする、そういったことが多くの企業で行われています。

主な理由は、ふたつ。
ひとつ目は、技術の進歩が目ざましいこと。
技術が発展するスピードが、昔とは比べ物にならないほど速くなっているのです。そして、複雑さ・難しさもどんどん増しています。
こうなると、もう営業社員では顧客に説明しきれません。
新しい技術が開発されるたびに営業社員が研修を受けていてはキリがなく、無駄なコストが生じる。
顧客から質問されても持ち帰るしかなく、そのやり取りに時間を割くのがもったいない。
そこで、技術者が同行して、あるいは単独で、顧客に直接説明する必要性が出てきました。
技術者が直接話すことで、そういった研修や質疑応答での無駄がなくなり、顧客にも安心感を与えることができるのです。
ふたつ目の理由は、人員の削減。
技術的な説明などの部分を技術者にやらせて、営業社員の人数を抑えようとする企業が増えています。
また、複数の顧客に対しての説明会やプレゼンテーションを、技術者が1人で行うことも珍しいことではなくなりました。
こうした背景があって、高津氏のもとを訪れる技術者が増えたのです。
IT関連のエンジニアやプログラマーが最も多く、次いでIT技術によって機能が向上し操作が複雑になった機器メーカー社員の受講が多くみられます。また、化学やバイオ関連の企業からも、技術者がセミナーに参加しています。
つまり、これから技術職の仕事を志す学生にとって、説明力・プレゼン力は必要不可欠。
就職活動にも有利であることは、言うまでもありません。
関西私大就職率ランキング1位(サンデー毎日2011年7月24日号掲載)の大阪工業大学が、その地位を不動のものにするためには、工業技術・IT技術に加えて説明力・プレゼン力を学生につけさせなければなりません。
高津氏が客員教授に就任したのは、そんな現状と理由があったのです。
しかし、わざわざ高津氏のようなスピーチ指導のプロに習わなくても、生まれてからずっと日本語を話してきたのだから、説明力・プレゼン力は自然に鍛えられるのではないか?と思うかもしれません。
確かに、大学でも研究発表などは数多く経験できます。
企業に就職してから、先輩や上司がプレゼンする姿を見たり、教えてもらうこともあるでしょう。
ところが、ここに1つの落とし穴があるのです。
それは、技術者の世界が閉鎖的な性質を持っているということ。
>> 説明できない技術者たち〜工業大学で何を教えるべきか〜(2) へ続く
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